大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)494号 判決 1967年3月07日
原告 桑野延彦
被告 松原市
右代表者市長 保田俊一郎
右訴訟代理人弁護士 加藤正次
同 森昌
同 高木伸夫
主文
被告は原告に対し、金四、〇三八円を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告は、主文と同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、
一、原告は松原市立布忍小学校教諭であり、昭和三七年四月一日現在俸給四一、一〇〇円、調整額(特殊学級担当)二、〇五五円、暫定手当六、一五〇円の合計四九、三〇五円を、また同三八年三月三一日現在俸給四四、九〇〇円、調整額二、二四五円、暫定手当六、三四〇円の合計五三、四八五円をそれぞれ支給されていたものである。
二、原告は、昭和三七年四月一日入学式挙行のため、同三八年三月三一日には入学式準備のため、同校校長斎藤功の職務命令によりいずれも午前九時から正午まで各三時間の勤務に服した。しかるところ、右両日はともに日曜日であり労働基準法第三五条の休日に当るので、原告は右各時間いわゆる休日勤務に服したことになる。
三、したがって、被告は原告に対し、労働基準法第三七条により休日勤務手当を支払う義務があるところ、原告の正規の勤務時間は一週四四時間であるから、労働基準法施行規則第一九条第一項第四号の適用があり、休日勤務一時間あたりの金額は、前記各給与月額合計に一二(一年間の月数)を乗じ、その額を右一週間の勤務時間四四時間に五二(一年間の週数)を乗じたもので除した額の一〇〇分の一二五であり、右一時間あたりの金額に勤務時間を乗じた休日勤務手当を当該月の遅くともその翌月末日までに支払う義務がある。
しかるに、被告はこれが支払をしないので、原告は被告に対し右の割合で計算した休日勤務手当、すなわち昭和三七年四月一日の勤務に対して九六九円、同三八年三月三一日の勤務に対し一〇五〇円、および労働基準法第一一四条に基くこれらと同一額の附加金の合計額四、〇三八円の支払を求める。
と述べ、被告の抗弁に対し、
一、松原市教育委員会管内では、小学校は三月二五日から四月七日まで春季休業日とされており、昭和三七年四月一日および同三八年三月三一日がいずれも春季休業中の一日であることは認めるが、原告の右両日の勤務に対しあらかじめ休日の振替がなされていたとの被告の主張は争う。松原市立布忍小学校校長斎藤功は、昭和三七年三月二四日の終礼の席で、四月一日は入学式のために出勤するよう指示しただけであり、昭和三八年三月二三日の終礼の席でも、先ず同校教頭山本豊一より三月三一日に入学式準備のため出勤するようにとの指示があり、次いで同校長より重ねて同じ指示があっただけで、いずれの場合も同校長は被告が主張するような発言はしていない。被告主張のように休日の振替がなされているのであれば、松原市立学校その他教育機関の管理運営に関する規則第三条第二項により松原市教育委員会に対しあらかじめ休業日変更届が提出されているはずであるが、そのような事実はない(被告主張の昭和三八年三月二三日付休業日変更届が松原市教育委員会に実際に提出されたのは同年四月一〇日以降である。)。その他、当時の同校の行事予定表、学校日誌、出勤簿、日宿直内訳書のいずれにも被告主張のような休日の振替があったことを示す記載はなく、かえって昭和三七年四月一日同三八年三月三一日に日直手当が支給されている(昭和三八年三月分宿日直内訳書には三〇日に休日日直が行われたように記載されているが、これは当初三〇日、三一日に半日直が行われたとして大阪府教育委員会中河内出張所に提出されていたのを、同年四月一九日になって同校長の命令で同校教諭東端幸治が訂正して再提出したものである。)。したがって、同校教職員が被告主張の日を代休日と理解していた事実もない。
二、また被告は、休業期間中の休日の振替は実益もなく、教職員の関心も薄いので、休日勤務をした場合も特に代休日を指定するようなことはなく、教職員自身で適当にその前後の自宅研修日を代休日と考えているのが実情であり、本件についてもその旨の黙示の休日の振替があったとみられるべきであると主張しているが、休業日は休日と同一でなく、教職員は休業日においてもなお大阪府公立学校職員就業規則(地方公務員法附則第六項により従前の例として現在なお適用されている)第一〇条により平常の勤務日と同様服務する義務を免れないから、休日の振替が行なわれた場合、教職員は振替えられた休日(従前の休業日)に勤務から全く解放されて休息が与えられ、学校設置者は振替えられた休業日(従前の休日)に休日勤務手当の支払義務を免れる実益があり、また、休日の振替に当っては代休日を特定することが必要であって、被告主張のように不特定の日に振替えることは労使合意の上でも許されないのである。さらに、原告ら教職員は自ら勤務の要、不要日を決定する権限はなく、すべて監督者である学校長の指示に従わなければならないのであるから、休日勤務をしたからといって、教職員自身で代休日を設けることは許されないのである。かりに被告主張のような実情があるとしても、それは松原市教育委員会、同教育長およびその委任を受けた学校長が労働基準法第一〇六条の法令規則の周知義務、および地方教育行政の組織及び運営に関する法律第二五条の事務処理の法令準拠義務を怠った結果生じた実情であるから、これを理由に、黙示の休日の振替があったとして休日勤務手当の支払を免れることはできないし、原告の本訴請求が権利乱用となるものではない。
と述べた。
被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁および抗弁として、
一、請求原因第一項、同第二項の事実は認める。同第三項の事実中原告の正規の勤務時間が一週四四時間であること、原告主張の休日勤務手当金請求額算出の計算関係は認めるが、その余の事実は否認する。
二、被告は松原市立小学校の教職員に対する休日勤務手当の支払義務者ではないから、被告は本訴請求につき被告たる適格を有しない。
すなわち、市町村立学校職員給与負担法によれば市町村立学校の教職員に対する俸給は都道府県が負担する旨規定されているが、右俸給中には同教職員に対する休日勤務手当(割増賃金)も含まれているものと解すべきである。けだし、労働基準法第三七条にいう割増賃金は、元来賃金であって、右規定は長時間労働に伴う諸々の弊害を防止するため、時間外、休日労働が通常の労働よりも高いものにつくようにすることによってこれが恒常化を抑制する趣旨で、通常の労働時間を延長し、もしくは、休日に労働者を使用した使用者に対し、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した賃金の支払を命じているに過ぎないのであって、その二割五分に相当する部分を便宜割増賃金と称しているわけである。従って、割増賃金は通常の労働時間を延長し、もしくは休日に労働させるからかくかくの対価を支払うという特別の契約によって成立するものではなく、労使間の基本たる労働契約から生ずる労働に対する反対給付たる賃金であること明白であり、さらに、時間外労働ないし休日労働したことにより支払わるべき割増賃金の中から二割五分を減じた残りの部分が労働に対する反対給付としての賃金であることは一層明らかである。特に本件においては、原告はその主張の両休日にその本来の任務である入学式や入学式の準備をしたものであることを十分考慮されるべきである。
また、地方教育行政の組織および運営に関する法律第三七条はいわゆる県費負担教職員の任命権は都道府県教育委員会にある旨規定し、労働契約関係は教職員と都道府県との間にあって市町村との間には存しないことを明確にしているのみならず、学校教育法第五条の「学校の設置者はその学校を管理し、法令に定のある場合を除いてはその学校の経費を負担する。」旨の規定は国、公、私立を通ずる一般原則を定めたものであって、公立学校殊に義務教育に属する公立小中学校に関しては、従来から学校という営造物の管理に関する費用(対物的費用)は設置者であり管理者である市町村が負担すべきものであり、教職員に対する俸給その他の人件費(対人的費用)は原則として都道府県が負担すべきものと解されているのであって、市町村立学校職員給与負担法はかかる趣旨を明確にしたに過ぎないものである。したがって、原告が本訴において請求している休日勤務手当の支払義務者は被告松原市ではなくて大阪府であると解されなければならないのである。
三、かりに右主張に理由がないとしても、原告のなした日曜日の勤務に対しては、松原市立布忍小学校校長斎藤功がいずれもあらかじめ休日の振替をしているから、休日勤務手当を支払う義務はない。
すなわち、原告が休日勤務を行ったという昭和三七年四月一日および同三八年三月三一日はいずれも日曜日であって労働基準法上の休日に当るとともに松原市教育委員会管内では小学校は三月二五日から四月七日まで春季休業日とされているので、右両日はいずれも春季休業期間中の日曜であるところ、学校の休業日は教職員にとっては自宅研修日であって勤務を要しない日ではないが、夏季および春季休業のような長期の休業期間中は休業日は実質的に休日に等しく教職員は登校を要しないから、校長、教職員とも休業期間中の休日の振替については特に関心を持たず、日曜日に出勤するからといって何日を代休日にするというようなことはいわず教職員自身でその前後の自宅研修日を適当に代休日と考えているのが一般である。また、大阪府下においては、教職員に対し休日に勤務を命ずる場合は、休日の振替をして休日勤務手当の支払はしないのが原則であり、このことは校長、教職員とも十分知悉しており、休日に勤務が命ぜられた場合、教職員はその前後の一日が当然代休日となるものと理解しているのが一般である。
右のような実情のもとで、同校長は昭和三七年四月一日の勤務について、同年三月二四日の終礼の席で四月一日は日曜日であるから四月二日に入学式を行えばよいのであるが、同日は市教育委員会管内中学校の入学式があり小学校の校長はこれに参列することになっているし、従前から小学校の入学式は四月一日に行われるものと一般に認識されているので、市教委管内小学校長会の申合せにより入学式は四月一日に行う旨説明し、全教職員の了解を得ているのであり、また、昭和三八年三月三一日の勤務については、同年三月二三日の終礼の席で三月三一日は日曜日であるから三月三〇日に入学式の準備をすればよいわけであるが、やはり入学式の前日に準備をする方がよいので三一日に出勤してもらいたいと要請して全教職員の了解を得、松原市教育委員会に対し右三月三一日の休日を前日の三〇日に振替える旨報告しているのであるから、原告の昭和三七年四月一日の勤務に対しては同月二日を、同三八年三月三一日の勤務に対しては同月三〇日をそれぞれ代休日とする休日の振替、ないしは右各勤務の日の前後の自宅研修日の一日を代休日とする休日の振替が、右各勤務についてあらかじめ明示もしくは黙示的になされていたものというべきである。
四、かりに右主張も認められないとしても、前記のとおり原告の本件各勤務はいずれも休業期間中のものであり、休業期間中教職員は勤務を要する日であっても、原則として自宅研修が認められていて特に指示のない限り登校を要しないのであるから、休日の振替をする実益はないのである。右のような休業期間中の教職員の勤務の実情を無視し、単に休日振替の措置を欠いた程度の軽微な瑕疵を理由に権利を主張する原告の本訴請求は権利乱用として許されるべきものではない。
と述べた。
証拠≪省略≫
理由
一、先づ、被告の当事者適格について判断する。
被告は、市町村立小中学校の教諭に対する休日勤務手当の支払義務者は大阪府であって被告松原市ではないと主張するが、学校教育法(昭和二二年三月三一日法律第二六号)第五条は学校の人的経費と物的経費とを含むすべての経費につき、法令に特別の定がない限り学校の設置者がこれを負担するとの原則を定めたものであることは文理上明白であるところ、右にいう特別の定に当る市町村立学校職員給与負担法(昭和二三年七月一〇日法律第一三五号)第一条は市町村立小中学校の職員の給料その他の給与の種目を網羅的に掲げてこれを都道府県の負担とする旨規定しているが、時間外勤務手当(昭和三二年六月一日法律第一五四号による改正によりはじめて都道府県の負担とされた。)については、事務職員に係るものとするとして教諭等教職員に係る時間外勤務手当を除外しているから、市町村立小学校教職員に対し時間外勤務手当を支給すべきものとすれば、時間外勤務手当の理論上の性格いかんにかかわらず、前記学校教育法第五条の原則規定に立ち帰って、学校設置者である市町村が負担すべきものと解さざるを得ない。そして、右法条にいう時間外勤務手当は正規の勤務時間をこえる勤務に対する反対給付としての賃金たる性質を有する給与を意味し、正規の勤務時間の割振がなされていない休日に勤務した場合のいわゆる休日勤務手当も当然これに含まれるものと解すべきであるから、松原市立小学校教諭に対する休日勤務手当の支払義務者は被告松原市であって、被告は本件休日勤務手当金請求につき被告適格を有するものといわなければならない。
二、よって、進んで原告の本訴請求の当否について判断する。
(一) 原告主張の請求原因第一、二項の事実は当事者間に争いがない。
(二) 被告は、原告のなした昭和三七年四月一日の勤務に対しては同月二日を、同三八年三月三一日の勤務に対しては同月三〇日を各代休日とする休日の振替、ないしは右各勤務日の前後の自宅研修日の一日を各代休日とする休日の振替が明示もしくは黙示的にあらかじめなされているから、休日勤務手当を支払う義務はないと主張するので考察する。
松原市教育委員会管内では、小学校は三月二五日から四月七日まで春季休業期間とされており、昭和三七年四月一日および同三八年三月三一日がいずれも春季休業期間中の日曜日であることは当事者間に争いがなく≪証拠省略≫を総合すると、学校の休業日の教職員の勤務の取扱いは、勤務を要する日であっても原則として自宅研修日とされていて特に指示されない限り登校を要しないことから、春季あるいは夏季休業のような長期の休業期間中の休業日は実質的には休日と異らない場合が希れでなく、したがって、長期の休業期間中は校長、教職員ともに休日の振替について比較的関心が薄いこと、大阪府下においては、教職員に対し休日に勤務を命ずる場合は休日の振替をして休日勤務手当の支払いをしない取扱いをするのが原則であること、昭和三七年三月二四日当時の松原市立布忍小学校校長斎藤功は自らもしくは同校教頭山本豊一を介して原告ら同校教職員に対し、同年四月一日は日曜日であるから四月二日に入学式をすればよいわけであるが、同日は松原市教育委員会管内中学校の入学式があり小学校の校長はこれに参列することになっているし、小学校の入学式は四月一日に行われるのが例なので、同市教育委員会管内小学校長会の申合せにより入学式を四月一日に行う旨説明して同日出勤するよう指示したこと、同三八年三月二三日も同校長は自らもしくは同教頭を介して原告ら同校教職員に対し、同年三月三一日は日曜日であるから、その前日の三〇日に入学式の準備をすればよいわけであるが、やはり入学式の前日にする方がよいからと説明して三一日に出勤するよう指示したこと、しかし、右いずれの場合にも、同校長ないしその指示を受けて同教頭が休日の振替について口答もしくは文書等によって明確な指示をしたということはないこと、以上の事実が認められる。≪証拠判断省略≫。
右認定事実によれば、昭和三七年四月一日の勤務に対しては同月二日を、同三八年三月三一日の勤務に対しては同月三〇日を各代休日とする休日の振替があらかじめ明示的になされたとは到底認められないところである。しかし、右同旨の黙示の休日の振替がなされたものと解する余地がないではないから更に検討するに、≪証拠省略≫を総合すると、被告が休日の振替により勤務を要する日になったと主張する昭和三七年四月一日に入学式が終了した後午後の当番として引続き勤務を命ぜられて勤務に服した教職員に対し、日直勤務に服したとして日直手当が支給されているが、昭和三七年四月二日に当番として登校した教職員に対しては日直手当が支給されていないということ、また、昭和三八年三月分の同校の宿日直命令簿および大阪府教育委員会中河内出張所に提出された同校の宿日直内訳書には、当初は同年三月三一日他の教職員の勤務が終了した後引続き勤務に服した教職員は同日半日の日直勤務に服したことになり、同教職員に対し半日分の日直手当が支給されることになるように記載されていたが、その後同年四月一九日になって前記斎藤校長の指示で右勤務はいわゆる日直勤務に当らず、同年三月三〇日の土曜日半日の日直勤務に服した教職員に一日分の日直手当が支給されることになるように訂正されたということが認められ、この事実に前記認定事実を併せ考えれば、右斎藤校長は、前記いずれの場合も前記両日をそれぞれ代休日とする意思で前示認定のような説明をしたのではなく、むしろ、休業中のことで休日の振替について無関心であったため、休日振替の措置をとることを失念していたものと認めるのが相当である。≪証拠判断省略≫。そうすると、黙示の休日の振替がなされていたという被告の主張も採用することができず、本件原告の勤務はいずれも休日勤務であるといわざるを得ない。
(三) そこで、原告の本件休日勤務について休日勤務手当請求権があるかどうかについて検討することにする。
原告ら公立学校の教職員が地方公務員の身分を有することは、教育公務員特例法(昭和二四年一月一二日法律第一号)第三条の明定するところであり、地方公務員法第五八条によれば、特別の除外規定を除き労働基準法は原則として地方公務員にも適用があるものとされているから、同法第四章の諸規定も原告ら公立学校教職員に対して適用があるものというべきである。そうすると原告ら公立学校教職員に対して労働時間を延長し、もしくは休日に労働させた場合は、労働基準法第三三条、第三七条の規定により、通常の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならないこととなる。
もっとも、原告の勤務する学校は、同法第八条第一二号に掲げる教育の事業に該当するから、同法第三三条第三項の適用はなく、他に特例を認めた法律も見あたらないから、休日の振替をすることなくして教職員に休日勤務を命じ得るのは、同法同条第一項の場合、すなわち災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合行政官庁(地方公務員法第五八条第四項によって人事委員会とされている。)の許可を受けて行う場合以外にはなく、休日に入学式ないしその準備を行う必要があるというような理由は右規定にいわゆる災害その他避けることのできない事由に該当しないこと明かであるから、本件の場合の学校長の職務命令は適法でなかったことになるところ、このような適法でない職務命令によって休日勤務をなした者についても休日勤務手当請求権が認められるかどうかが労働基準法第三七条の規定の文言から一応疑問となるが、同条の立法趣旨が使用者に対して時間外労働および休日労働に対する割増賃金の支払を強制することによって間接に同法三二条、第三五条の労働時間、休日に関する規定が導守されることを担保しようとする点にあることを考えるならば、このような休日労働に対してはなお一層強い理由で休日勤務手当の請求権が認められなければならないと解するのが相当である。
なお、被告は休業期間中の事情からみて単に休日振替の措置を欠く程度の瑕疵は軽微なものであるから、原告の本訴請求は権利乱用として許されるべきものではないと主張するが、学校の休業期間中の教職員の勤務の実情が被告主張のとおりであるとしても、これがため労働基準法に定められた使用者の義務の履行が安易であってよいという理はないし、本件の権利行使によって、原告が受くべき経済的利益が保護に値しない程少額であると謂うこともできないから、この点の被告の主張も採用しない。
(四) 以上の次第で、被告は原告の本件各休日勤務に対し、当事者間に争いがない原告の本件休日勤務当時の各給料額および原告の正規の勤務時間一週四四時間を基準として、労働基準法第三七条、同法施行規則第一九条第一項第四号所定の算出方法(原告主張の請求原因第三項記載の計算方法であることは被告の争わないところである。)によって算出した休日勤務手当金の合計額二、〇一九円を支払う義務があり、その支払期の到来していることは明らかである。そして、これを支払わない被告は労働基準法第三七条の規定に違反する使用者となるから、裁判所は同法第一一四条の規定により被告に対し右休日勤務手当金と同一額の附加金の支払を命ずるべきである。
よって、右休日勤務手当金およびこれと同一額の附加金の支払を求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用し、仮執行の宣言についてはこれを付さないのが相当であると認め、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中島孝信 裁判官 今中道信 笹井昇)